貧者の一灯 ブログ

信じれば真実・疑えば妄想

貧者の一灯・一考編

















※…「家の風呂は温まらんのじゃ。」


それが口癖だった祖父は家のお風呂ではなく、
近所にある銭湯へ毎日通っていた。


真冬でも銭湯に通 うため、帰ってくる間に風邪
をひかないか、とても心配したことを覚えている。


しかし祖父は、ほっか ほかの顔をして帰宅後も
団扇 うちわ でパタパタと全身をあおいでいた。


そして数年が経ち、祖父は大好きな銭湯へ通う
ことができなくなってしまったが、病院のベッドの
上 でもアツアツのタオルで足を包み込んであげ
ると、いつも目をつむって幸せそうな吐息を漏ら
していた。


祖父が亡くなって初めての祖父の誕生日。


ふと、銭湯へ行ってみたくなった。祖父が毎日
通っていた 銭湯へ、私も行ってみたくなったのだ。


当時の母は乳がんで胸を失っていたため、乳
がん専用のバスタ イムカバーという水着のよう
な下着をつけて入浴することがあった。


それは温泉専用のものなので、銭湯で使用して
もいいかどうか不安そうだったのだが、そのとき
私は、 ダメ元で銭湯に聞いてみようと提案した。


銭湯のおばさんは祖父のことを覚えてくれていて、
母へも 『そんなの気にしなくていいから、堂々と胸
張って入っておいで!』と、電話越しに力いっぱい
に答え てくれた。


その日の夕方、私は祖父が毎日通っていた銭湯
の暖簾のれん をくぐった。


白い暖簾に赤い「湯」の文字。レ トロ感いっぱい
だけれど、とても清潔な暖簾をそっとくぐると、
カラカラという軽快な音を立てて引き 戸が開いた。


木枠のしっかりした黒光りするロッカーに荷物を入
れてお風呂に入ると、全身から力が抜 けるように
落ち着いた。


初めて来るところなのに、とても不思議な気持
ちだった。


ふと隣を見ると、母がお風呂の湯気に隠れて
泣いていたが、私は見なかったことにした。


そして私も、 ぶくぶくと顔の半分までお湯につ
かってこっそり泣いた。


お風呂から上がると、番台に座っていたおばさん
がにこにこしながら、 「おじいちゃんのお風呂、
どうだった?」 と聞いてきてくれたけれど、


照れくさくてうまく答えることができなかった。


顔のほてりは恥ずかしか ったからか、のぼせた
からかは覚えていない。


銭湯がある場所は、再開発が進んでいる駅前
の住宅街の一角にあるが、ここだけは今のまま
姿形を変 えずに、守り続けられることを願って
いる。


後継者問題や少子高齢化問題などあるが、
人情味たっぷり のあの雰囲気はいつまでも
残ってほしいし、


おばさんの明るい笑顔と心地よい声をもう一度
聞きたい。 そして、今ならおばさんにはっきり
伝えることができる。


おばさん、ありがとう。おじいちゃんが毎日来た
かった理由がなんとなくわかる。


お風呂も人も、 みんな温かいって一番の
幸せだね」。。…













※…
「こうのとりのゆりかご」 (通称:あかちゃんポスト)
日本では熊本県と北海道に2カ所
(2022年5月時点)が 設置されています。


これまで預けられた子供の数は 120人に
上るそうです。


日本で初めての試みとなった あかちゃんポスト。
その取り組みにいたる経緯とは…


※…
東京の「生命尊重センター」の方から、 「ドイツ
に匿名で赤ちゃんを預かる 『ベビークラッペ
(赤ちゃんポスト)』が  あるから見学に行きま
せんか」 とお誘いをいただき、


平成16年に 私は迷わず現地へ飛んだのでした。
当時のドイツでは、70か所のベビークラッペが
設置されており(現在は100か所)、


私は4つの施設を回ることになりました。 年間
40人くらいが預けられるとのことで、 一か所
当たり2年に一人くらいの利用頻度だと思い
ました。


預けられた赤ちゃんは、小児科の病院で診察
を受け、 異常がなければ専門里親に預けら
れます。


一方、性別と障害の有無、預けられた日時、
母親に向けては「迎えに来てください」 という
メッセージが新聞に掲載されます。


8週間経って親が名乗り出なければ 養子縁組
の手続きを開始。


驚いたのは障害のある赤ちゃんには 正常な
赤ちゃんより育てたいという 希望がより多く
あるということ。


また「子供は家庭で育てられるべき」 という
考えが徹底しており、 ほぼすべての子が施設
ではなく 新しい家族のもとに送られることでした。


さらに、妊娠葛藤相談所、匿名出産といった
母子の命を守る様々な施策があることも知りました。


中絶手術を受けるという場合でも、 相談所で
十分話し合い、 証明書がなければ手術は
受けられません。


ただ、視察中、私には一つの疑問がありました。


それは一か所の施設につき、 2年で一人の
預け入れしかないにも拘わらず、 70か所も
つくる必要があるのかということです。


率直に視察先の小児科医に質問してみると、
私は次のようなお叱りを受けたのです。


「各地に設置していつでも利用できる 状態
にしておくことが大事なんだ。  


命を何だと考えているか!」


その言葉に命を大切にする教え、思いを
強く感じました。


私は預けられる赤ちゃんが 2年に一人だっ
たらつくらない、 つくると思うのは根本的な
間違いなのだと、 気づかされたのです。


しかし、帰国後、法律専門家の方にお伺い
すると、


匿名で赤ちゃんを預かるのは捨てることを
助ける 「遺棄幇助罪」に当たる可能性もある
と意見が出たのです。…








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