貧者の一灯 ブログ

信じれば真実・疑えば妄想

貧者の一灯・番外編

















※…
自宅に15年近くひきこもっている30代男性に
会うため、福祉団体スタッフの古屋隆一(ふるや
・りゅういち)(41)は昨夏から訪問を重ねた。


だが数カ月たっても空振りばかり。近くのアパート
で暮らす父親は認知症のため、以前のように
生活費を届けることができなくなっていた。  


〈お父様のご健康上の問題から、お父様とご
一緒して、毎月(お金を)手渡しいたします。
玄関を開けていただき、お渡しします〉  


古屋は書き置きを残し、男性の反応を見ること
にした。だが約束の日に訪ねても、やはりドア
は開かない。


面会のための「口実」は見透かされていた。    


数週間後、玄関前に1枚の紙があった。
〈生活費が足りず、強盗する〉  


これは本心ではなく、「助けてほしい」という
メッセージではないか。古屋はそう直感した。


だが書かれていたことが本当ではないと、
直接確かめる必要がある。…       



※…冬の朝。


古屋は緊張した面持ちで、男性宅の前に立っ
ていた。同行した警察官がインターホンを何度
か鳴らすが、応答はない。


持参した鍵でドアを開けると、チェーンがかかっ
ていた。  


ドアの隙間から、警察官が名前を何度も呼ぶ。
「チェーンを切りますよ」。


すると少し不機嫌そうな表情の男性が現れた。
「待ってください」  


警察官「家の前に置いてあった紙は本気
ですか」  


男性「そんなつもりはありません」  


警察官「困っているなら、この人たちに相談
したらどう?」  


古屋「初めまして。何かあれば教えてくれま
せんか」  


男性はよく眠れず、食事も十分に取れて
いないようだった。


古屋と自治体の担当者に向かって「病院に
行きたい」とつぶやいた。


うつ症状で以前通院していたが、いつしか
途絶えていた。  


※…
警察官が立ち会ったことが果たして良かっ
たのか。古屋は今も自問している。  


「本人に満足感があれば、ひきこもりは一つ
の生き方。自分で出てこられる時まで、家族
やほかの支援者と協力して待ちたいが、扉
をこじ開けてしまった」  


だが先細りするばかりの生活をこのままに
してはおけない。ぎりぎりの決断だった。…





福祉団体スタッフの古屋隆一(ふるや・りゅういち)
(41)は、ひきこもり生活を続けていた30代の
男性にようやく会うことができた。


自治体と連携しながら本格的な支援を始め、
男性を巡る環境は大きく変化した。  


認知症の父親は介護施設に入所。


男性は生活保護を利用するようになった。
古屋や自治体の担当者の提案に、最初は
ためらっていたが、父親からの仕送りには
限りがあることを理解し、受給に同意した。  


精神科の受診を希望した男性のために、
古屋は信頼できる医師に診察を頼んだ。


数回付き添うと、その後は1人で通えるよう
になった。  


男性はある時、履歴書を持ってきた。手書き
のきちょうめんな文字。


「でも、体調が悪くて働けない」とぽつり。


古屋の目には「本人なりに頑張ろうとしている」
と映った。  


孤立無援の状態から医療や福祉とつながり、
男性の生活基盤は整い始めた。


「その先」を見つめたサポートは今も続いて
いる。  家族や自治体の担当者を交えた月
に1度の会議では、近所付き合いが議題に。


他人と長い間交流していない男性は、周囲と
の関わりを望んでいなかった。


「町内会から退会すればいいのではないか」
との意見も出た。  


だが社会生活を送るためには、多くの人と
交わり、経験を積む必要がある。


「地域の人もどう接すればいいのか分からない。
そこを何らかの形でつなぐ必要がある」   


※… 
さまざまな人を巻き込み、支援を続ける古屋
には、ある苦い記憶がある。  


以前、ひきこもりの50代男性への訪問活動を
していた時のこと。なかなか会えず、手応えの
ないまま時間だけが過ぎていった。


2年近くがたち、男性は心筋梗塞で突然亡く
なった。持病が原因だったが、無力感にさい
なまれた。  


医療に詳しい人が支援に入っていれば、
自分が強く病院に行くことを勧めていれば、
もっと生きられたのではないか。「知恵を
出し合える仲間が欲しい」。


1人では限界があった。  


古屋はひきこもりや不登校に関心のある
支援者や看護師、家族らが集う場を作り、
医師や専門家を招いて講演会などを開い
ている。


「支援の輪を広げ、悩みを抱える人が相談
できるきっかけにしたい」(敬称略、文中仮名)













※…行徳哲男師の言葉…


人間の特に男の魅力というのは「素」「朴」
「愚」「拙」の四つの言葉で表わすことが
できると思うんです。


「素」のよさは何も身につけていないことです。


カーライルが『衣装哲学』という本で述べて
いますが、いまの人間はいろいろと着込み
すぎですよ。


枝葉をつけすぎている。 枝葉をつけた木は
見栄えはいいけれど、滋養は枝や葉が吸っ
てしまい、幹や根が弱ってしまいます。


逆に枯れ木は見栄えはしませんが、力強さ
を持っている。 これが「素」の魅力ですね。


「朴」とは泥臭さのことでしょう。


泥臭さがなければ本当の指導者にはなれな
いし、時代の救世主にはなれないんですよ。


作家の柴田錬三郎さんがシベリアに抑留され
ていたときに、極寒の中でしばしば靴下を盗ま
れたそうです。


そういう盗人はインテリや育ちのいい人間で
あったと書いています。


それに対して「俺の靴下を履けよ」と情けを示し
てくれたのは魚屋のおやじさんやヤクザ者だっ
たそうです。


そういう限界状況で情を示せる人間というのは、
どこか朴訥な田舎っぽいところがあったというん
ですね。


こういう朴訥(ぼくとつ)さをいまの指導者たち
は失っています。


同時に「愚」がなさすぎる。


「大賢は大愚を見せるにあり」と言いますが、
大きな賢さというものは大きな馬鹿を見せる
ことです。


「愚」の魅力とは阿呆になれる、馬鹿になれる
こと。 そういう人物のもとには、「この人のために」
とたくさんの人が集まってくる。


それが本当の利口というものでしょう。 そういう
「ど阿呆」が日本にはいなくなりましたね。


吉田松陰が一番好きだった言葉にこうあり
ます。 「狂愚まことに愛すべし、才良まこと
に虞(おそ)るべし」


頭がいいだけの人間は恐ろしいですよ。
また、松陰はこうも言っています。


「狂は常に進取に鋭く、愚は常に避趨(ひすう)
に疎(うと)し。才は機変の士多く、良は郷原
(きょうげん)の徒多し」 愚の人は計算しません。


要領が悪い。 だからこそ、新しいことに挑(いど)
めるわけでしょう。


でも、才良の士は郷原(きょうげん)の輩になっ
てしまう。 すなわち、うわべだけ取り繕って人に
こびたり、人を陥れたり、人を利用したりする。


いまはそんな人間が多すぎます。
馬鹿力と言いますが、馬鹿こそ力なんですよ。


最後の「拙」は下手くそのことです。


下手くそな人間は魅力的ですよ。 いまは上手
に生きようとする人間、要領のいい人間があまり
に多い。



※…
「気に入らぬ 風もあろうに 柳かな」 という
江戸時代の臨済宗の僧侶、仙崖(せんがい)
和尚の歌がある。


世の中には理不尽なことが多くある。
批判や、揶揄(やゆ)、嘲笑という風。


ときには大風が吹くときもある。 気に入らぬ
ことも多いが、柳に風と受け流す。


受け流すことができる人は… 「素朴愚拙」
の人だ。


また、「素朴愚拙」の人は、「深沈厚重
(しんちんこうじゅう)」の人でもある。


中国明代の儒学者である呂新吾(ろしんご)
が 名著『呻吟語』で「人物」について語っている。


深沈厚重(しんちんこうじゅう) 是第一等素質
磊落豪遊(らいらくごうゆう) 是第二等素質


聡明才弁(そうめいさいべん) 是第三等素質
第一等の人物は、深沈厚重の人で、どっしりと
落ち着いて深みのある人物。


細事にこだわらない豪放な人物は第二等。
頭が切れて弁の立つ人物は第三等である。


「深沈厚重」であり… 「素朴愚拙」の人を
目指したい。








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